この事例の依頼主
50代 女性
ご相談者は、50代女性で、ご自身が車両を運転し、信号待ちをしていたところ、前方不注視の加害者から(後方から)追突された事案です。事故により、頸椎(首の骨)骨折等の障害を負い、頸椎の治療は一応終了して、事前認定(任意保険会社を通じて、後遺障害の認定を得る手続)により、脊柱変形(頸椎の変形が完全に元に戻らないこと)という後遺障害で後遺障害等級11級の認定を受けられていました。 また、事故のストレスにより円形脱毛症を発症され、こちらはまだ通院中でした。このような段階で、保険会社から賠償額として370万円の提示を受けましたが、納得がいかず、当職がご相談を受けました。
受任後、脊柱変形の後遺障害により労働能力を喪失していることを主張し、保険会社と交渉しましたが、保険会社からは、依頼者が納得するような提示が出ることはなく、また代理人(弁護士)を立てて徹底的に争ってきました。そこで、さらに訴訟手続で解決まで長期間を要することは出来る限り避けたいとの依頼者のご希望があったこともあり、交通事故紛争処理センターという示談あっせん機関を利用することとしました。交通事故紛争処理センターは、(中立の)弁護士などが当事者の間に入り、専門的な見地を交えて、比較的短期間での解決を目指して示談あっせんを行う機関ですが、本事案は、すでに保険会社も代理人を立てて争ってきており、この手続きの中でも保険会社側は、後遺障害に対する保険会社顧問医の意見書を提出してくるなどして引き続き徹底抗戦となりました。そのため当方も、顧問医の意見書に対し、詳細・丁寧な反論を繰り返し、センターから和解案も出ましたが、保険会社は最後まで任意で示談には応じませんでした。紛争処理センターでは、このような場合、センターとしての最終的な結論(裁定)を出すことができ、保険会社はこれに従うことが義務付けられています(被害者側は、センターの結論に従わずに訴訟する途が残されます)。センターの裁定が約1200万円と判断され、依頼者もこれに同意され、解決に至りました。
この事案で争点となった脊柱変形という後遺障害は、上記のとおり、脊柱(首の骨や背骨)が完全に元どおりにならず、変形した状態で症状が固定するというものですが、例えば手足の関節が曲がらなくなった(可動域制限)といった後遺障害などと異なり、直接的な労働能力の喪失が比較的分かりにくい後遺障害であることもあり、保険会社が必ずと言っていいほど労働能力の喪失率を争ってくるタイプの事案です。また、実際に裁判例(同種事案の裁判の結論)においても、特に近年、被害者側に不利な判断も散見されています。しかしながら、被害者の方は脊柱変形による痛みや疲れやすさなどに非常に苦しんでいらっしゃる方が多く、こういった被害者の苦しみをいかに賠償に反映させるかが、いわば弁護士としての腕の見せ所といってもいいかと思います。本事案もそうでしたが、このような事案では(特に裁判では)保険会社が顧問医の意見書を提出してくることが多く、この場合、ある程度の医学的見地に基づく反論が欠かせませんので、裁判例はもちろんのこと、医学的な文献などにも当たり、ときには被害者の主治医の先生にお話を聞きに行ったりしながら主張・立証を積み重ねていきます。本事案も、そうした丁寧な主張・立証の積み重ねが結果につながったものと考えているところです。